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2013年度青山音楽賞 受賞者インタビュー② 崎谷明弘さん(ピアノ)

みなさんこんにちは。前回に公開したDuo bel Sognoのインタビューから少し時間が空いてしまいましたが、今日は受賞者インタビュー第2弾をお届けします。
今回は、青山音楽賞「新人賞」を受賞した、ピアニストの崎谷明弘さんです。
なお、インタビューを行ったのは授賞式当日の3月1日です。

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【贈賞理由】
崎谷 明弘:ピアノリサイタル(平成25年11月30日(土))
J. S. バッハからアルメイダ・プラドまで、およそ260年の音楽史を俯瞰するようなプログラムを組んだ崎谷の演奏は、それぞれの音楽様式を大胆に描き分けており、新人らしからぬスケールの大きさを感じさせるものであった。J. S. バッハやベートーヴェンでは、瑞々しい音楽を奏でた一方、プラドやリストではデモーニッシュとも言える圧巻の超絶技巧を繰り広げた。崎谷の指先から紡ぎ出される音色は、終始プリズムのような変化を見せ、時に聴く者の心を癒やし、時にあっと驚かせた。この豊かな表現力を支えているものは、鍛え抜かれた演奏技術と卓越した創造性である。また、聴衆の心を掴む能力にも長けており、崎谷のピアノからはコンサート・ピアニストとしての才能と、無限の可能性が感じられる。今後、日本のピアノ界を牽引する演奏家へと成長することを期待し、ここに青山音楽賞「新人賞」として顕彰する。

 

【インタビュー】

――このたびは「新人賞」のご受賞おめでとうございます。受賞対象となったリサイタルに関して、ご自分ではどんな手応えを感じられていましたか?

崎谷:財団の方々がとても素晴らしくサポートしてくださったので、何の不自由もなく、本当に気持ち良く演奏することが出来ました。ピアノですので、調律の方も含めて、自分が準備するのは半分で、あとの半分は会場のスタッフの方ですとか調律の方ですとか、支えてくださった方。色々な方の支えがあって、演奏会を実現することが出来ました。本当に感謝しています。

 

――わたしもその日のリサイタルを拝聴したのですが、凄まじいまでの超絶技巧でお客さんたちを圧倒する半面、抒情的な音色を奏でられることもあり、様々な顔を見せてくださったことがとても印象的でした。崎谷さんはパリで学ばれたということですが、崎谷さんのピアノ演奏のスタイルは、やはりそういう留学経験も関係があるのでしょうか?

崎谷:そうですね~、自分はパリという街自体はそんなに良い思い出があったわけではないので・・・色々家に恵まれず点々として4年いました。やっぱり先生が良い先生で、もちろん指導も人間的にもサポートしてくださって。ジャック・ルヴィエという先生なんですけども。本当に彼のおかげで勉強することが出来ました。当時お金もなかったですから、最初の方は家賃を払うだけで精一杯という感じで。生活は難しかったですけど、その分、音楽の勉強に集中出来ました。今でも時々パリに行きたいなと思いますが・・・

 

――行くのと住むのとでは違いますよね。

崎谷:住みたいとは思わないですね(笑)。勉強に関しては、学校でしっかり毎週やっていました。日本に来て受けに行かなくてはいけない先生のレッスンを、効果的に毎週受けられたのはすごく良かったです。

 

――なるほど。ちょっと話は戻るのですが、崎谷さんの演奏会でもう一つ印象的なことがありました。それは様々な層のお客さまがいらっしゃったことです。

崎谷:当日の会場には、非常に着飾った方がいらっしゃったと思うのですが(笑)、彼はリンダさんという方です。私が高校生の時に、神戸にある松方ホールでのリサイタルに初めて来ていただいて、それ以来ずっと応援してくださっています。最初はクラシック音楽に興味がなかったらしいのですが、ご自分がピアノを習うようになって、それから私の演奏会に来てくれるようになって・・・というつながりで、ずっと応援してくださっています。本当に一生懸命応援していただいて、感謝しています。リンダさんは演奏会当日、ご友人の方々も連れてきてくださいました。あとは私の生徒さんですとか、アマチュアのピアニストの方ですとか、そういう方々も来てくださいました。いま、「ツイピ(ツィッターピアノの会)」というのがあるんですけど、ツィッター上で情報をやり取りして、その繋がりで来てくださったり。あとは小・中・高の同級生も来てくれていましたね。

 

――崎谷さんの集客力は凄いですね。

崎谷:いやいやいや~とっても大変ですよ。ハラハラしてたんです(笑)

 

――地元じゃないところであれだけ集客出来るのは凄いですよ。

崎谷:本当に周りの方々のおかげです。周りの方々が応援してくださって、親切に声をかけてくださっている。ひとりで何人も連れてきてくださる。そうやって周りに温かく応援してくださる方がたくさんいるという面では自分は恵まれていると思います。

 

――ファンの方も今回の受賞は喜んでいらっしゃるでしょう。

崎谷:それはそうです、本当に。喜んでくださっています。しばらくツィッターでは大騒ぎでした(一同笑い)

 

――先ほども生徒さんについて、少し話題に出ましたが、教育の方にも力を入れていらっしゃるのでしょうか。

崎谷:今も(3月1日)東京芸大の受験があって、私のメインの生徒というわけではないんだけど、2人ほど残っているものですから、明日から各地でレッスンをしなければいけないのです。合格すれば良いですけど、試験は水物ですから分かりません。ピアノを演奏していくということは、もちろん周りは応援してくれますが、孤独なものだと思うのです。でもその中で、生徒と触れ合う機会があるということは、自分にとって、大きなモチベーションになっています。演奏にも繋がっています。ピアノの前ばかりに座っているというのは、あまり気分の良いものではありませんからね(笑)。僕は練習好きな方ではないので。やって3~4時間でしょうか?演奏会前になるとそのための準備をしていって、クリアしていくという感じです。人と関わってこその音楽だと私は思います。生徒たちの演奏を見て行くなかで、僕自身も勉強になっていくこともありますし、自分が一生懸命やっているということを生徒たちに見せなければいけない。責任感が必要です。僕は基本的にサボリですから(笑)。そういう責任感を持つということはちょうど良いんじゃないかなと思います。彼らは僕の演奏を聴きに来るわけですから。

 

――生徒さんたちの目標にもなりますからね。

崎谷:ハハハ、目標・・・(笑)うーん・・・(笑)

 

――ところで、今日はリストの《ドン・ジョヴァンニの回想》を演奏なさいますが、どんな思い入れのある曲でしょうか?

崎谷:弾いていて、ここまでピアノに挑むというか、そういう思いにさせられる曲ってあんまりないんですよね。もちろん、音楽との対峙という意味では、いつも戦いですけど。曲自体は、モーツァルトのオペラから良いところばかりを選んで作曲された曲で、全体的にとても長い曲です。なので、楽曲構成に気を使ったり、とても難しい曲です。ただうるさいだけの曲になってしまう恐れもあったり、技術だけになってしまったり、あるいは、自分が弾くことにかなり必死になってしまったりする曲で、ずいぶん苦労して取り組んできました。コンクールなどでも、最近は弾かせていただいていますし、演奏する側も、聴いている側も大変興奮する曲です。演奏家は、ワーッと弾きながら興奮したりはしないですけど、自分の中の潜在的な部分が沸き立つというか、そういう印象のある曲です。

 

――そう、崎谷さんの演奏は聴衆の心を鼓舞させるんです。不思議な魅力だと思います。

崎谷:よくそう言っていただくんですけど、ありがたいことです。私はお客さんが楽しくないと意味がないと思っています。良い質の音楽をお聴かせするということは当たり前のことです。やっぱりお金を払って聴きにきてくださるわけですから、『チケット代を払って聴きに来て良かった』と思ってもらわないといけないなと思います。さっきも仰ってくださいましたが、私のお客さんは、クラシック音楽ファンばかりではないので、どんな層のお客さんでも楽しんでもらえる場面を作るということ、そういうことを一番これからも心がけていきたいと思います。これは決して、クラシックの専門家たちを蔑ろにするわけではありません。広く汎用性を持っていきたいと思います。

なかなか、音楽業界自体が厳しいなーと思っているんですけど、僕はいま25歳なので、あと40年、50年やっていくとなったときに、最後まで頑張ることが出来るか、時々考えるんです。自分は出来ると思うんですけど、そういう土壌が残っているのか、毎日不安で、そういうことを考えています。少しでも僕を育ててもらったところに、貢献できればと思っています。

 

2013年度青山音楽賞 受賞者インタビュー① Duo Bel Sogno

去る3月1日、青山音楽記念館バロックザールにて、2013年度青山音楽賞の授賞式が開催されました。

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本年度の受賞対象となった演奏会は全部で6公演。
授賞式当日、受賞者の皆さんから貴重なお話をお伺いすることが出来ました。
受賞者のご紹介を兼ねて、6回に渡り、贈賞理由とインタビュー内容をご紹介したいと思います。

第1回目は、バロックザール賞を受賞した、兄妹によるヴァイオリン・デュオ Duo bel Sognoのお二人です。

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左:中村仁美、右:中村公俊

 

【贈賞理由】
Duo bel Sogno(中村公俊・中村仁美):Duo bel Sogno Violin Duo Concert Vol. 9(平成25年11月17日(日))

2009年以来、ヴァイオリンデュオによる演奏活動を継続させてきた、Duo bel Sognoの音楽に対する探究心と向上心には目を見張るものがある。ヴァイオリンデュオのためのレパートリーは決して多いとは言えないが、彼らのプログラムからは、丹念に楽曲を発掘し、演奏機会の少ない作品を世に広めていこうという積極的な姿勢が垣間見える。アンサンブル技術も回を重ねるごとに上達しており、第9回を迎えた本公演では、多くの聴衆が2人の一糸乱れぬ熟練した演奏に心を動かされた。中村公俊・仁美の音楽的個性は、互いに異なるものであるものの、素晴らしい音の相乗効果が見られる。この音楽におけるクオリティの高さは、2人の弛まぬ努力の賜物であり、妥協を許さない真摯な取り組みが功を奏したと言える。「継続は力なり」という言葉を心に、ヴァイオリンデュオの新しい世界を開拓し続けて欲しいという願いから、ここに青山音楽賞「バロックザール賞」を贈賞する。
【インタビュー】
――受賞のニュースを聞いた時の様子を聞かせてください。

中村公俊さん(以下、公俊):僕自身、バロックザールには高校の時からお世話になっていて、ステージのお手伝いもしたことがあったんです。この授賞式も、手伝ったことがあるんですよ、何年前か分からないけど。ですから、自分が受賞者側として出席することが出来るなんて!という感じでした。

中村仁美さん(以下、仁美):私は、とりあえずびっくりしちゃって、「なんで?」って思いました。当日の演奏に対して、納得したものもあれば、納得できなかったものもあった。だから、終わった直後に、兄と「またリベンジしないとあかんなー」と話をしていました。

 

――そうでしたか、ちょっと意外です。ということは、受賞対象となったリサイタルに対して、あまり手応えを感じることが出来なかったということなのでしょうか?

仁美:自分たちが「よく弾けた」と思ったものと、聴衆側から「良かったよ」と言われた曲が違ったんです。自分たちが弾けなくてとても落ち込んでいた曲に対して、聴衆のみなさんが「素敵だった」と言ってくれた。そういう食い違いがあって・・・だから余計に受賞のニュースを聞いてびっくりしたんです。

 

――お二人は以前にも何度か、バロックザールで演奏してくださっています。今回のリサイタルは、バロックザール賞受賞につながって本当に良かったですね。

公俊:そう、初めてではないのだけど、別に僕たちは「バロックザール賞に挑戦する!」と思って演奏会をしていたわけではないのです。僕たちの中では、そういったこと無しに「演奏しよう」という気持ちが強かったんです。ここのホールは演奏会を開催するための助成金をいただくことが出来るので、いつも『ありがたいなぁ』と思って使わせていただいていたんです。そういう気持ちだけでした。

 

――なるほど。ところで、ヴァイオリンのデュオというアンサンブルは、ありそうでなかなかお目にかかれない組み合わせだと思うのですが、2人で演奏会を開催し続けてきて、何か苦労はありましたか?

公俊:やっぱり曲選びですね。レパートリーがとっても少ない。いつも演奏会のために曲を選ぶのが大変で。しかも2人が「これなら弾いても良いな」と思えるような曲が違ったりもするから難しいですね。基本的に、僕が色々な曲を選んできて、仁美に「どう?」って聞いて、仁美の○か×かで決まる(一同笑い)。
こんな曲はどうだろう、あんな曲はどうかな?と。曲を探してくるのは僕ですね。

 

――まぁ、頼もしいお兄さんですね!
そうすると、このデュオはお兄さんが妹さんを引っ張っているのでしょうか?

公俊:いや、そういうわけではなくて、仁美が第1パートを演奏することも多いんです。

仁美:今日演奏する曲(アラール《3つの華やかなデュオ》作品27の2)も私がファーストを演奏します。

 

――曲によっては、なかなか入手しにくい楽譜もあると思うんですけど、どうやって手に入れていますか?

公俊:大英図書館の電子カタログで検索をかけて、取り寄せたり。あとは、ウィーンに行った時に、ドブリンガー楽譜店に行って、探したこともある。仁美が観光している間に、僕がほこりにまみれながら楽譜を掘り起こしたり(一同笑い)。

 

――兄妹でも、なかなかデュオの練習時間をしっかり取るというのは難しいことだったと思うんですけども。

公俊:そうそう!けっこう2人でお互いに「この時間なら家にいるだろう」と思い込んでいるところがあって、でもお互いに思った時間にいないから、演奏会前になると「なんでいないの?!」と言い合いになる。

仁美:そうなんです、家にいる時間が全く違うんです。

公俊:家族だからこそ、いい加減になってしまうところもあって。

仁美:結局夜中の12時過ぎて、必死で合わせをしてる(一同笑い)

公俊:朝は2人とも苦手だからね。

 

――そもそも、なぜ兄妹でヴァイオリンデュオを組もうと思ったのですか?

公俊:大学を卒業して、仕事で外に出てヴァイオリンを弾くようになって、仕事の曲ばかりをさらうようになったんです。仕事以外には、必死でさらおうと思える場面がなかった。だから、そういう時間を作ろうと思いました。あとは、大学時代にあまり「合わせ」というものに取り組むことが出来なかったんです。やっぱり、何か「合わせ」をしたいなぁと思ったのがきっかけです。

 

――なるほど。結成4年目にして、バロックザール賞受賞という快挙を成し遂げたDuo bel Sognoですが、今後のデュオとしての展望を教えてください。

公俊:ちょうど先日、CD作成のために録音をしました。今年の5月に発売される予定です。その録音をしているときに思ったことがあったんですが、やっぱり、ヴァイオリン・デュオはとても難しいし、録音が大変だなって。
例えば、ピアノとヴァイオリンのデュオだったら、ピアノの音が基本となるので、ヴァイオリンはピアノの音程に合わせていけますよね。片方の楽器の音程が固定されているので、それに合わせられる。でも僕たちは、どちらかの音程が少しでもずれたら、それにつられてどんどん音程が悪くなっていってしまう。
弦楽器にとって命とも言える音程が取りにくいということが、僕たちの中では一番難しいところでした。録音した後の音源を2人で聞いていても「あっ、ここの音程が・・・」と落ち込むことばかりで。
だいたい、2人が初めから終わりまで、隅々まで完璧に音程を正しく取れることなんて、まず無いんですよね。そういった、最も難しいことを僕たちはしようとしているんだな、ってあらためて思いました。
ですから、今後、もっともっと良い状態のものをCDとして残していきたいなという思いもありますし、色々な曲をどんどん世に広めて行きたいとも思います。色々な曲にも出会いたい。ヴァイオリン・デュオの曲は、色々な時代に本当に沢山作曲されたのに、まだ全然知られていません。
ヴァイオリン・デュオって案外簡単そうに思うでしょ?でも、すごく難しいのです。一人で弾いている方がよっぽど楽だし、ピアノ伴奏があった方が楽。そういう、しんどいことを2人でしようとしているわけですけど、しんどいことだからこそ、やり甲斐があるとも思います。

5月に発売されるCDには、今日演奏させていただくアラールの曲も入っていますし、プロコフィエフとかマルティヌー、オベールも入っています。皆さんに聴いていただきたいです。

仁美:私は、2人だけのオリジナル曲とか、そういうことにもっともっとチャレンジしていくことが出来たら良いなと思います。以前、作曲家の増田真結さんにお願いして、Duo bel Sognoのために曲を書いてもらったことがありました。《フルコト》と《オクシモロン》という曲で現代音楽です。
とても楽しかったので、これからもDuo bel Sognoオリジナルの曲を弾いてみたいと思います。

公俊:仁美は、お客さまにどうしたら喜んでいただけるかなって考えるんです。僕はそこまで気が回らないので、ちょうど2人でうまくバランスが取れているなと思います。

仁美:舞台演出面でも、もっと色々なことがしてみたいです。2人だけ、舞台上にポツンと立っているだけではなくて、もっともっと舞台を効果的に使ってみたい。
例えば、映像を使ってみたり。お客さまからそういうアドヴァイスをいただいたこともあります。これから、そういうことにも挑戦してみたいと思います。