2015年度青山音楽賞受賞者インタビュー⑥ヴェセリン・パラシュケヴォフ&村越知子(ヴァイオリン&ピアノ・バロックザール賞)

今回、バロックザール賞を受賞された唯一のデュオ、ヴェセリン・パラシュケヴォフさんと村越知子さん。
インタビューの中でも話題に出ましたが、アンサンブルは「継続すること」に意義があると同時に、それが一番の難しさでもあると思います。
しかし、パラシュケヴォフさんと村越さんは2002年からデュオを組まれているということで、共演歴は10年超え!
その秘訣やアンサンブルの楽しさなどについて、お聞きしました。

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ヴェセリン・パラシュケヴォフ&村越知子:デュオ・リサイタル(2015年4月11日(土))
かつてウィーン・フィルのコンサートマスターを務めていたパラシュケヴォフと村越によるデュオ・リサイタルは、格調高さを感じさせるステージであった。彼らは12年もの月日を共に演奏し、さまざまなレパートリーを手中に収めてきたベテラン・デュオである。受賞対象公演では、モーツァルト、プーランク、シューマンのヴァイオリンとピアノのためのソナタが演奏されたが、互いに思いやり、バランスに気を配りながら弾き進められていた。ウィーンの薫り漂うパラシュケヴォフのヴァイオリンに寄り添う形で、村越のピアノが語りかける。これこそが「デュオ」だと思わせるような演奏だった。今後もデュオとしてステージを重ねて欲しいとの願いから、ここに青山音楽賞「バロックザール賞」を顕彰する。(2015年度第25回青山音楽賞授賞式プログラムより)

 

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――この度は受賞おめでとうございます。まずは、お二人がデュオを組まれたきっかけを教えていただけますか?

 

村越さん(以下敬称略):私は、2001年度に青山音楽賞「音楽賞」(現「青山賞」)を受賞したのですが、その折に、藤原靖彦先生が「パラシュケヴォフさんという方が来年演奏会をしに日本にいらっしゃるのだけど、あなた伴奏してみない?と仰ってくださったんです。それで「ぜひやりたいです」とお答えしたのがきっかけです。

 

――まぁそうだったんですか!わたしはてっきりヨーロッパで出会われたものだと思っていました。

 

村越:いえ、違うんです。日本で出会いました。実は、パラシュケヴォフ先生の奥様は日本の方なのです。そのご縁もあって、日本によく来られているのですが、日本人のお弟子さんもたくさんいらっしゃって、これまでも日本でたくさん活動なさってきました。

 

――プロフィールの欄に「毎年継続して活動をしている」と記載されていましたが、アンサンブルの難しさの一つに「継続」があると思うのです。これに関してはどうお考えですか?

 

パラシュケヴォフさん(以下敬称略):アンサンブルは1回か2回、演奏会でやって「それじゃ、さようなら」というわけにはいかないです。そういう場合は「ヴァイオリン」と「その伴奏(ピアノ)」という関係性にしかなりません。
「室内楽」というスタンスで音楽をする場合、例えばモーツァルトとかベートーヴェンとかブラームスとかだと、「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ」と書いてあって、ピアノ・パートも重要になってくるわけです。
だからこういう楽曲を「ヴァイオリン」と「その伴奏」で演奏しても形にならない。
必然として、同じ音楽を2人でやるということはどうしても時間がかかります。アンサンブルとして継続させないと意味がないのです。

これは、いわゆる「ヴァイオリン・ピース」と呼ばれる作品にもあてはまることだと自分は考えています。一般的に、ヴァイオリン・ピースのピアノは「伴奏」です。
でも、室内楽と同じスタンスで演奏しないと良い音楽は生まれてきません。
テンポと音を合わせて演奏すれば良いという問題ではなく、2人で「同じ音楽を演奏している」という意識が必要です。それには、時間が必要なんですよね。

 

――なるほど、そうですよね。お二人で予定を合わせるのはなかなか難しいことだと思います。

 

村越:私はイタリアに住んでいて、先生はケルン郊外にお住まいです。お互いそれぞれの生活がありますので、前もって「この週末は空いているよ」と連絡を取り合って練習しています。
主に私が飛行機に乗って、先生のところまで参ります。

 

――お二人がここまで長くデュオを続けてこられた「秘訣」はなんでしょうか。

 

パラシュケヴォフ:リサイタルには、一般的に滅多に演奏されることのないシューマンの2番のソナタをプログラミングしました。
このソナタのことはずっと前からやりたいと思っていて、ソナタ1番を書いて満足出来なかったシューマンが生み出したものこそ2番だと考えていました。
2番のソナタの方が良い音楽ではないかということを確かめたかったのです。
でも、その作業は一人では出来ません。一緒に勉強出来るパートナーが必要なんです。
それを実行するためには、自分とパートナーとの間にかなりの親密な信頼感というものがないと絶対に出来ません。私たちがこれまでデュオを続けてこられたのは、この絶対的な「信頼感」があったからこそなのです。

 

――演奏する際に信頼しきれるという関係はとても貴重なものだと思います。今回のリサイタルのプログラミングはどのように決められたのですか?

 

パラシュケヴォフ:まず、シューマンの2番のソナタを弾こうという思いがありました。
それを演奏する場合、どこに配置するか、何と演奏するかということを考えた時に、このプログラム(モーツァルト、プーランク、シューマン)になったのです。
シューマンがプログラムの要でした。

 

――なるほど。そのリサイタルを終えられた時のお二人の手応えというものはいかがでしたか?

 

村越:私は、ですが「うまく弾けたな」とは思わなかったですね。
今回は、いつもにも増してシビアな感じがありました。シューマンのソナタ2番をやろうと仰ったのは先生からだったのですが、そのシューマンにかける思いや挑戦というものを私を介して行われるわけです。だから、その日こうやってみて気に入らなかったら明日はああいうふうにしてみたり・・・という作業が続きました。そういう作業は私からすると、とてもシビアなものだったのです。全部弾き切った時はぐったりしていました。

 

パラシュケヴォフ:ベートーヴェンもブラームスも似たようなことがあるのですが、シューマンのソナタにおける問題というのは、楽器です。
ピアノは当時と比べると大きく変化しました。シューマンの2番のソナタには、ピアノ・パートとヴァイオリン・パートの音域が低いところで重なるところがあります。
当時のピアノと演奏すると全く問題がありません。
しかし、現在のモダン・ピアノで演奏すると、オーケストラのような大音量を出すことが出来るので、非常にバランスが悪いのです。そこが難しかったですね。

 

――なるほど。この日のリサイタルはたしか、ベーゼンドルファーのインペリアルを選ばれましたよね。音量のコントロールなどは難しくなかったでしょうか?

 

村越:響きは増しましたが、ドイツものを演奏する時にベーゼンドルファーは決定的に音色が合うのです。あとはペダルとかタッチとかでなるべくガンガン鳴らさないように、気をつけました。
特にペダルに関しては、本当に必要な箇所だけに留めました。もちろんこのようなことは、うまくいくときとうまくいかないときがあるのですが、このような方法でコントロールしました。

 

パラシュケヴォフ:お互いにとって心地よい「バランス」を見つけるのに時間をかけてきましたので、本番はとてもうまくいきましたよ。

 

――ところで、バロックザール賞受賞のニュースを聞かれた時、お二人ともどのようなお気持ちでしたか?

 

パラシュケヴォフ:このような賞は、若い人たちのためにあると思っていました。私はそこまで若くないので(笑)。私に下さる賞があるということが素晴らしいなと思います。

 

――この賞は年齢には関係なく、素晴らしいアンサンブルを聴かせて下さった方々に差し上げている賞なんですよ!
それでは、最後にお二人の今後の夢を教えて頂けますか?

 

パラシュケヴォフ:今は楽器を上手に弾く人はたくさんいますが、やっぱりそれが全てではないので、自分の命のある限り、音楽に対する愛、音楽で語ることの出来る愛に拡がりを持たせることの出来るような演奏を心がけていきたいです。

ところで、神さまが存在するかしないかって、人間はよく考えますよね。ナンセンスかもしれませんが、私は美しい音楽が流れている瞬間は神さまがいると思うのです。
これは音楽だけではなく、他のアートでもそうです。とても美しいことを、日本語で「神々しい」と言いますよね。美しい瞬間に、神さまが存在すると思うのです。
そういう気持ちを持ち続けることってとても大切なことだと思うのですよ。

 

――本当にその通りです。何気なく使っている「神々しい」という言葉について、目から鱗でした。素晴らしいお話をありがとうございました。またお二人のデュオを拝聴出来る日を楽しみにしています!

(2016年3月5日青山音楽記念館・バロックザール)