2015年度青山音楽賞受賞者インタビュー⑦上野星矢さん(フルート・新人賞)

2015年度青山音楽賞受賞者インタビュー最終回は、新人賞を受賞されたフルート奏者の上野星矢さんです。
まだお若いのですが、すでに国際的な活動をなさっており、日本を代表するフルート奏者のおひとりでいらっしゃいます。
インタビューではこれまでのキャリアのお話や楽曲に関するお話など、多岐にわたる内容について聞くことが出来ました。

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上野星矢 フルート・リサイタル(2015年7月25日(土))
演奏会後に残った幸福感と高揚感が、全てを物語っていた。上野のフルートは、ただ「素晴らしい」の一言。人々を思わず惹き付けるステージマナー、虹色に光る音色、卓越した技術、豊かな音楽性、どれをとってもスター性に満ちている。これだけ聴き手を興奮させ、喜ばせることの出来る若手演奏家はそうそういないだろう。プーランクのソナタで見せた軽妙洒脱な歌い回しは誰にも真似出来ないものであるし、《クリスタルの時》を献呈した上林裕子の「(上野のフルートは)すべてが生き生きと煌めく」という言葉にも頷ける。タファネルの幻想曲では、内門卓也の研ぎ澄まされたピアノ伴奏に支えられて、しなやかな息づかいと圧倒的な技巧を見せた。この類い稀なる才能を武器に、これからも世界中で活躍してほしい。ここに青山音楽賞「新人賞」を顕彰する。(2015年度第25回青山音楽賞授賞式プログラムより)

 

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――まず、フルートを始められたきっかけを教えていただけますか?

 

上野さん(以下、敬称略):地元の小学校の吹奏楽部で、たまたまフルートを始めたんですけど・・・

 

――いつごろ、フルートでやっていこうと思われたのですか?

 

上野:まぁ、小学校を卒業するときには「フルートを続けていこう」と思って・・・。
それで、地元の駅前にある街の音楽教室に通って、そこからまた新しい先生を紹介して頂いて、というふうにつながっていったんです。吹奏楽の中でフルートを吹いていたのは、小学校の3年間と中学校の1年間だけですね。

 

――じゃ、本当に自然な流れでフルート奏者を目指されたわけですね。

 

上野:そうですね、小学校の時にフルートの手ほどきを受けた顧問の先生の影響が大きかったですね。その先生のおかげで、フルートを続けていきたいなと思いました。

 

――なるほど・・・。ところでプロフィールを拝見していると、東京藝大に入学された翌年にはパリに留学されていますね。どのような経緯でパリに留学されたのですか?

 

上野:東京藝大1年の時に、ランパル国際コンクールで優勝したのです。19歳になりたての頃です。その時の審査員の先生方の中に、パリのコンセルヴァトワールで教えていらっしゃる方もいらっしゃって「こっちに来なさいよ」と言って頂いたんです。
その前から『留学したいな』という気持ちはあったんですけど、タイミングがなかなか合わなかったので、お誘いを頂いた時に「今だ!」と思って。

 

――ちなみに何という先生ですか?

 

上野:パリではソフィー・シェリエ (Sophie Cherrier、パリ国立高等音楽院教授) とヴァンサン・リュカ (Vincent Lucas、パリ管弦楽団首席フルート奏者、パリ地方音楽院教授) に習いました。

 

――大学1年の時に、よくフランス留学を決心されましたね。

 

上野:そうですね。でもそれまでも何度かは行ったことがあるんです。
あと、実は父もフランスで演劇を学んでいたので、フレンチ・コネクションがなんとなくあったんです。そういう環境もあって、いずれフランスには行きたいなと思っていました。

 

――東京藝大にはもう戻られなかったのですか?

 

上野:そうなんです。東京藝大は2年間しか休学出来ないというシステムがあったんですね。だからフランス留学して2年が経った時に、どちらで卒業するかという選択に迫られたのです。
色々考えたんですけど、結局パリで卒業しようと決めました。

 

――話は少し戻りますが、ランパルで優勝されてからというのは、生活が大きく変わったのではないでしょうか?

 

上野:そうですね。たくさんの人たちが僕の演奏に注目してくれましたので、自分の意識の高さが必要だったりとか、そういうことはありましたけど、プレッシャーはそこまでなかったですね。
やっぱり、自分の活動がより表に出るということが嬉しかったです。

 

――舞台に立たれた時に緊張やプレッシャーを感じることはないのでしょうか?

 

上野:まぁ、しますけどね。緊張するヒマもないくらい、音楽に集中しています。
逆に緊張する時っていうのは、集中出来ていない時なんですよね。

 

――仰る通りです。わたしも上野さんのリサイタルを実際に聴かせて頂いたのですが、張り詰めるような緊張感と集中力を感じました。

そういえば、上野さんのリサイタルにはお客さまがたくさんいらっしゃっていました。関西以外のご出身でいらっしゃる方々はみなさん口々に「集客が難しい」とおっしゃるのですが…

 

上野:最後に関西で音楽会をしたのは、確か3年前でした。関西ではあまり機会がなかったのですが、どこかでずっと「もう一度関西でやってみたいな」という気持ちはあって。
いつもたいてい名古屋止まりなんですよね。

この音楽賞の存在は前から知っていました。僕はピアニストの崎谷明弘君と仲良しなのですが、彼は2013年度に青山音楽賞新人賞を受賞しましたよね。
やっぱりそのニュースを知ったということが大きかったと思います。

 

――崎谷君が受賞した当時、けっこう反響があったように思います。というのも、彼はtwitterやfacebookをとてもうまく使いこなしていますよね。
それで受賞のニュースが一気に拡散された感じがします。

 

上野:そうですね。僕は関東から来て、自分とゆかりのない土地でリサイタルをするということで不安もあったのですが、結果的に受賞出来て本当に良かったと思います。
これからも、関西だけじゃなくて、関東からももっと音楽家の方が来られたら良いですよね。

 

――そうですよね。ところで上野さんの場合、集客はどうなさったんですか?

 

上野:それは本当に心配で心配で・・・やっぱり宣伝のしようがないんですよね。
だから僕はそれこそ、twitterやfacebook、HPなどを駆使してやりました。どうなることかと思いましたけどね。

 

――当日のプログラムはどうやって決められたのですか?

 

上野:もちろん僕自身が決めたのですが、音楽賞の新人賞の選考に関わるということもありましたし、あとは久しぶりの関西公演ということもあったので、まずはプログラムをあまり軽いものにしたくなかったんですよね。(自分の音楽を)出し惜しみしたくなかったんです。
いま自分が出来る、最大限のプログラムだったと思います。
フルートっていうと、だいたい軽いプログラムが多くて「あれっ、もう前半終わり?!」ということもよくあるんです。もちろん、全力で吹くと前半でとても疲れてしまうということもあります。
でも僕は、例えばピアノやヴァイオリンの公演と比べても見劣りしないプログラムを組みたかったのです。

 

――とても素敵なプログラムでしたよ。
今日の授賞式で演奏される曲はまた、あの時のリサイタルとは違う曲を演奏なさるんですね。
(授賞式当日、ドビュッシー≪シランクス≫と武満徹≪ヴォイス≫を演奏)

 

上野:そうなんです。今日は無伴奏で、ドビュッシーと武満を選びました。
どちらも好きな曲ですが、特に武満さんは、今年没後20年というメモリアルイヤーなのです。
彼はフルートの響きが好きで、フルートのための色々な曲を残しているんですが、その中でも《ヴォイス》という曲は少し特殊な曲なんですね。演奏中に、フランス語と英語で演奏者の声が入るのです。

 

――どのような言葉をしゃべるのですか?

 

上野:「透明」に対して話をしています。最初はフランス語で Qui va là ! Qui que tu sois, parle, tranparance!(そこにいるのは誰か!言え、透明よ!)と言って、次に英語で全く同じこと (Who goes there? Speak, transparence, whoever you are!) を「透明」に向かって語りかけるんです。

 

――フルートを吹きながら言葉を発するということは難しくないですか?

 

上野:大変といえば大変ですけど、それも武満さん自身がフルーティストという普段歌ったり声を出したりしない、吹いているだけの人がそういう状況に追い込まれた時に、どういう力を使うのかということも一つのコンセプトだったらしいですね。

 

――そうなんですか。それはとても楽しみですね。
ところで、上野さんの普段の生活を少しだけ教えていただけますか?

 

上野:こういうソロの演奏会をしたり、教えることもよくしますね。つい最近も台湾に教えに行ったんです。冬期講習会のようなものなんですけど。台湾は最近よく行っていますね。

 

――教育にも興味を持たれているとのこと、それはどうしてですか?

 

上野:自分がこうイメージする、理想の楽器の扱い方とか、音楽に対する向き合い方とか、自分の中で強く持ってきたつもりなんですね。
だから、人から「貴方は天才だ」とか「才能でやってきた」と言われるのが凄く嫌だったんです。単純に人よりも音楽のことを考えている時間が長いだけなんだよ、ということを自分で証明したいです。
また、自分でも苦労してきた分、テクニックのことでも同じ苦労している人に対しても何か手助けになることもたくさんあると思うので、これから日本のフルート界のさらなる発展に貢献するのは当たり前のことなんじゃないかなと思うんです。自分がただ楽しくやっていても、それだけでは仕方のないことだと思うんですよね。

 

――まだお若いのに立派だなぁ・・・本当に感心します。ところで上野さんは、音楽以外に趣味をもたれていたりするんですか?

 

上野:そうですね、今はあまりやらないんですけど、スポーツが好きです。サッカーとか好きですし、ヨーロッパでも週末に時間がある時にはやっていました。
最近はちょっと出来ていなくて、身体がなまっちゃっているんですけど。サッカー、今でもやりたいですねぇ。

 

――そうなんですか。スポーツ、良いですね。でもケガをしないように気をつけてくださいね。
それでは最後に、将来の夢を教えて頂けますか?

 

上野:常に自分の中で出来る最高の演奏していくということは当たり前のことなんですけど、それプラス、演奏会をやっていく中でフルートとか音楽をやったことのない人たちが自分の音楽によって新しい世界を見つけて、小さな子たちがフルートをやってみようかな、音楽をやってみようかなって思うきっかけを作れるような演奏家になりたいですね。

(2016年3月5日、青山音楽記念館・バロックザール)