2015年度青山音楽賞受賞者インタビュー④辻本玲さん(チェロ・青山賞)

受賞者インタビュー4回目は、青山賞を受賞されたチェリストの辻本玲さんです。
実は辻本さん、青山音楽賞始まって以来初の新人賞・青山賞のW受賞者となりました。
(新人賞は公演時に25歳以下であること、青山賞(旧音楽賞)は26歳以上(以前は26歳以上35歳以下)であることが条件です)
ソリストとして大活躍中の辻本さんへのインタビューは、終始笑いっぱなし!あっという間の20分でした。

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辻本 玲:チェロ・リサイタル(2015年10月10日(土))
ダイナミックかつ豊かな音色でチェロを響かせる辻本の演奏は、いつ聴いても心地よい。受賞対象公演もその期待を裏切ることなく、伸びやかで抒情的な音楽に満ちていた。すでに日本を代表するチェリストとして第一線で活躍する辻本であるが、どのような曲でも弾き飛ばすことなく、誠実に音楽と向き合う姿が印象的であった。ブラームスのチェロ・ソナタ第2番や、プロコフィエフのチェロ・ソナタでは、辻本の魅力が最大限に発揮され、的確なテクニックと持ち前の美しい音色で観客を唸らせた。ピアニストの須関裕子のサポートも素晴らしく、辻本のチェロに華を添えた。青山音楽賞設立以来、初の「新人賞」(2007年)・「青山賞」ソロW受賞となった辻本の更なる飛躍を願い、ここに青山音楽賞「青山賞」を顕彰する。(2015年度第25回青山音楽賞授賞式プログラムより)

 

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――まずは受賞おめでとうございます。青山音楽賞始まって以来の「新人賞」「青山賞」W受賞となりましたが、新人賞を受賞された当時と比べて何か手応えとか感触とか、やっぱり変わりましたか?

 

辻本さん(以下敬称略):受賞したのって、何年前でしたっけ?

 

――けっこう前ですよね・・・2007年に受賞されています。

 

辻本:ああ、大学を卒業してすぐ後くらいだったんですね。そうですね、当時と比べて余裕がありましたよね。音楽的にも気持ち的にも余裕がありました。

当時は、ちょうど留学をしようかという時だったんです。フィンランドとスイスに、4年半行きました。それで、そのフィンランドの時に新人賞を受賞した時に頂いた研修費を使わせて頂きました。

 

――なるほど。8年ぶりにバロックザールに戻ってこられたきっかけは何でしたか?

 

辻本:東京の音楽事務所に入って4,5年経つんですけど、それからは東京で毎年リサイタルを開催させて頂いていました。
それとあわせて名古屋と、関西の会場でいつもコンサートをしていたのですが、今回場所を決める時に「久々にバロックザールで弾こう」と思ったのです。

 

――バロックザールでの弾き心地ってどうなんでしょうか?

 

辻本:例えばソナタとか、細部のディティールとか、そういうものを聴いて頂くにはちょうど良いホールかな、と。響きも良いですしね。

 

――そういえば、辻本さんが今回組まれたプログラムにもソナタが2曲(ブラームスの2番とプロコフィエフ)が入っていましたね。

 

辻本:毎年リサイタルをしていると、プログラミング出来る曲も少なくなってくるんですよね。

プロコに関しては、昨年4月に新日本フィルとプロコフィエフの《交響的協奏曲》を演奏したんです。その流れでプロコのソナタを入れようかなと思いました。

 

――そういう大曲の間にショパンの小品が入っていましたね。ピアノ曲のノクターン第2番をチェロ用に編曲したものでした。

 

辻本:僕のリサイタルって、最初はわりと真面目に弾いて、後半の最初は小品を弾いて、最後はまた真面目に弾くんです。そうすることによって、お客さんも聴きやすいと思うんですね。
チェロの小品といってもチェリストの中では有名でも、一般の方からすると知らない曲が多いのです。
でもショパンのノクターンだったら、皆さん知っているでしょう。

 

――色々と練られたプログラムだったんですね。
ところで、辻本さんはどのようにしてチェロを始められたのですか?

 

辻本:5歳上の姉がヴァイオリンをしていたということもあり、クラシック音楽は小さい頃から身近にありました。
僕は幼少期にフィラデルフィアというところに住んでいたのですが、そこにカーティス音楽院という有名な学校があって、その発表会を見に行った時にたまたまチェロを弾いている子がいたのです。
それを見て習い始めました。6歳くらいでしょうか。その前にピアノは習っていたのですが。

 

――6歳から始められて一度も「チェロをやめたいなぁ」と思ったことはありませんでしたか?

 

辻本:一回だけありますね。その時はただ、ひたすら遊びたかったんです。

 

――(笑い)

 

辻本:その時、宿舎に住んでいて、同い年の子がいっぱいいたんです。自分はチェロの練習をしているのに、その子たちは外で楽しそうにサッカーをしている。
それを見て「チェロをやめてサッカーしたいな」って思ったんですよね。
まぁ、一日でチェロを再開しましたけれど。

 

――チェロって一日どれくらい練習するものなんですか?

 

辻本:そりゃ、やばい時は一日中やってます。

 

――「やばい」時・・・(笑)なるほど。
辻本さんからチェロを学ばれている方たちに何かアドヴァイスをするとしたら、どんなことでしょうか?

 

辻本:「録音」ですね。練習を録音すること。
基本的に弾けない人っていうのは、練習の仕方が下手なんですよね。たいていの人っていうのは、録音するって言っても演奏会だとか、特別な時にしか録らないじゃないですか。
で、聴いてみて「あれーうまくいってない。まぁでも緊張していたから」とか言っちゃう
。でもそうじゃなくて、練習の仕方がマズイから上手くいかないんですよね。
ちょっとした練習の時でも録音して聴いてみて、どういう練習をしているからマズイのかということに気付く必要があります。

例えば音程が悪いという時も、自分でわーっと弾いている時って案外耳はシャットアウトしてしまっている場合が多いのです。
でも録音だと冷静に聴くことが出来ます。そこに座って弾きながら聴く自分と、客観的にその音を聴く自分との間に出来るギャップを少しずつ埋めていくことが大事なんですよね。

 

――仰る通りです。学習者の皆さん、「とにかく録音を聴け!」ですよ(笑)
ところで、辻本さんのリサイタルでは、1724年製のストラディヴァリウスを使用されましたよね。これはどんな楽器なんですか?

 

辻本:NPO法人のイエロー・エンジェル(株式会社壱番屋の創業者、宗次徳二氏が設立)から貸与された楽器です。イエロー・エンジェルは音楽家支援に取り組んでいらっしゃるところなのですが、若い奏者に良い楽器を貸与する事業もなさっているのです。

最初はこの楽器に慣れるのに大変でしたね。
前まではイギリスの楽器を使用していたんです。オールドなんですが、けっこう簡単にふわっと音が出る楽器でした。
今回貸与を受けたストラドはイタリアの楽器ですよね。銘器なんですが、圧力の入れ方ですとか、そういうことが前の楽器とは全く異なりまして、最初は全然音が鳴らなかったのです。
『これ、ほんまに銘器か?』と思いましたね(笑)
それくらい、自分で楽器を鳴らすことが出来ませんでした。でも一年くらい経つと、ようやく楽器のことも分かってきて、バランスも良くなってきましたね。

 

――楽器のことをあまりよく知らない方からしたら「ストラディヴァリウス」というだけで「特別に良い音が鳴る」と思いますけど、違うのですね。

 

辻本:年末にやっている格付けの番組※って見てはります?
(※テレビ朝日系「芸能人格付けチェック」のこと。楽器を隠した状態で、総額数億円の銘器と初心者用の楽器による演奏を聞き分けるコーナーがある)

 

――・・・はい、見ています。

 

辻本:あれね、絶対分からないですよ。
弾いている方々には申し訳ないけれど、普段弾き慣れないストラドとか演奏しても、楽器が鳴らないんですよ。意外と安い楽器の方が簡単に鳴っちゃうんです。

 

――仰っている意味、とてもよく分かります!

 

辻本:あとはモザイク越しに、楽器の色が濃いか薄いかで見分けたりね。

 

――(爆笑)

 

辻本:そうじゃないと、分かりませんよ!
例えばですよ、弾いている奏者が(フランク・ペーター・)ツィンマーマンだったりしたら、そりゃ一発で当てられますよ。でも普段から弾き慣れていない楽器だったり、自分の楽器じゃないものだったりすると、楽器は鳴ってくれないですよね。

 

――じゃぁ、毎回正解を言い当てるGACKTは・・・あれはヤラセなのかな。

 

辻本:彼はきっと「コツ」を分かってるんでしょうね。
高価なワインだって、「これは靴下の臭いがするぞ」とかで、きっと当ててるに違いない。

 

――靴下の臭いですか!(爆笑)

 

辻本:そういうもんでしょう?「(価格が)高いものはこういうクセがあるぞ」ってね。
僕はお酒が飲めないので分からないですけど。

 

――もっと面白いお話をお伺いしたいのですが、そろそろ時間ですので、最後に今後の夢をお聞かせ下さい。

 

辻本:・・・夢、・・・もっとチェロがうまくなりたいです。

 

――シンプルな夢ですね(笑)それ以上うまくなりますか?

 

辻本:なります。これからもっと経験値を積んでいきたいです。
オーケストラにも入ったので、これまで触れてこなかった作曲家の作品を演奏出来ます。
そういうところで得た経験や知識をソロ演奏に還元できたら良いなと思います。

(2015年3月5日、青山音楽記念館・バロックザール)