青山音楽賞「新人賞」を受賞された、ピアニストの川原慎太郎さん(2010年受賞)と打楽器奏者の中田麦さん(2012年受賞)。「新人賞」受賞の条件であった音楽研修を無事に終えて、それぞれ11月23日(水・祝、中田さん)と12月3日(土、川原さん)に音楽研修成果披露演奏会を開催します。そこで、受賞直後の思い出話から音楽研修の内容まで、様々な事柄についてお二人に語って頂きました。
まずは中田さんのインタビューからご紹介します。
―中田さんが青山音楽賞「新人賞」を受賞されたのは2012年度のことでしたね。あれからもう4年も経ちました。リサイタルを開催された当時のことを少し教えて下さい。
中田麦さん(以下、敬称略):2012年は新人賞にエントリー出来る最後の年でした。リサイタルは前年に行ったバロックザールでのリサイタルの緊張からは随分開放されて、それなりに納得のいく演奏ができました。
――年齢制限ぎりぎりのところでのご受賞、良かったですね。新人賞の受賞後、どのような音楽研修をなさったのですか?
中田:オーケストラと協奏曲を共演するワークショップ参加(ブルガリア)、国際マリンバコンクール出場(オーストリア)、全14回の室内楽コンサート鑑賞(イギリス)、と3回のヨーロッパ研修を行いました。
特に3回目の研修で行ったイギリスでは、歴史ある室内音楽ホールのウィグモア・ホールで様々な室内楽のコンサートを聴いて大変良い経験になりました。どのコンサートも想像していたよりハイレベルで、これまで自分自身が持っていた音楽的基準を大きく上げることになりました。
――色々な体験をされたのですね。日本だけではなく、海外でも音楽を学ばれたり経験を積まれたことによって、ご自分の中で何らかの変化や成長を感じられたのではないでしょうか。
中田:感性の変化としては、新人賞受賞当時は鋭く、削ぎ落とされた無駄のないものへの愛着が強かったです。最近はある種の鈍さ(良い意味で)や隙にも惹かれるようになりました。
――なるほど…鈍さや隙に惹かれるということは、つまり、気持ちに余裕が出てこられたということではないでしょうか。
ところで少し話が前後してしまうのですが、中田さんが打楽器を始められたきっかけを教えて下さいますか。
中田:父が地域の子どもたちに和太鼓を教えていたので、6歳から和太鼓を始めました。
――まぁ!最初はマリンバではなくって和太鼓から始められたのですね。それではいつマリンバにご興味を持たれたのですか?
中田:和太鼓だけではなくせっかくなら旋律のある打楽器もやったらということで、つまらないと感じていた学童保育をやめるのと引き換えにマリンバを始めました。確か…9歳の時でしたね。地元の奈良はマリンバ人口が関西でも突出して多く、自宅から歩いて3分のところに先生のご自宅があったことも大きかったです
――小さい頃は習い事を継続させることが一番大切ですから、お近くに良い先生がいらっしゃって良かったですね。ところで、中田さんは楽器を演奏されていない時、何をなさっていますか?趣味などお持ちでしょうか。
中田:音楽以外に好きなことはたくさんありますが、趣味と呼べるものはありません。演奏以外は自分の演奏の録音や映像の編集をしています。
――自分の演奏をちゃんとした形で、しかも自分の手で残すことが出来るって素晴らしいことだと思います。そういえば、中田さんのホームページを拝見した際、マリンバを演奏なさっている動画がありました。あれはご自分で編集なさっていたのですね。
さて、中田さんは11月23日にマリンバのソロ・リサイタルを開催されますが、今回のプログラミングについて教えて下さい。
中田:前半はバッハとヘンデルの楽曲を取り上げます。
バッハの無伴奏ヴァイオリンと無伴奏チェロ作品は、中学生の頃から取り組んでおり、マリンバで弾くこと自体が難しく、常に課題でした。しかし、これから先もずっと演奏していきたい曲なので、今回のリサイタルのためにバッハの無伴奏チェロ組曲から第6番を選びました。バッハ作品はマリンバの中低音の響きが心地よいです。
それに対してヘンデルはマリンバではほとんど演奏されないので選びました。ヘンデル作品では、その魅力的なメロディにハッとさせられます。
――後半は邦人作曲家の作品が3つ並んでいます。それぞれの作品についてご紹介頂けますでしょうか。
中田:助川敏弥の《パウル・クレーによせる5つの小品》は、スイスの画家クレーの絵画にさもありそうなタイトルが5曲の小品それぞれに付けられており、まるでクレーの絵を見ているかのような面白い作品です。
八村義夫の《アハーニア》はイギリスの詩人ウィリアム・ブレイクの予言書『アハーニア』に基づく作品で、厳しい無調の響きが特徴的です。後半に演奏する3曲の中では最も抽象度の高い作品です。
一柳慧の《パガニーニ・パーソナル》はパガニーニの有名な主題による変奏曲です。この作品ではピアノ譜は伴奏ではなくマリンバと対等な関係で書かれており、ピアニストの力量も存分に発揮される刺激的な作品です。
――なるほど、いずれも中田さんがこだわって選曲なさったものなのですね。
中田:前半はバロックの大家2人の対比、後半は明確な題材に基づく個性的な3つの邦人作品の聴き比べといえます。前半も後半も、それぞれの作品の違いを楽しんでいただけたらと思います。
――ピアニストの崔理英さんとの共演も期待しています。
中田:これまで何度も共演しているので、余計なことに気を遣わずに演奏することが出来ています。「パガニーニ・パーソナル」での競演がとても楽しみです。
――それでは最後に、打楽器奏者である中田さんの夢を教えて下さい。
中田:バッハの無伴奏ヴァイオリン作品だけのコンサートをいつかしたいです。
――それはとてもチャレンジングなプログラム!興味深い演奏会になりそうですね!ぜひその時はバロックザールで開催してくださいね。まずは11月23日のリサイタル、楽しみにしております。
<演奏会情報>
2012年度青山音楽賞新人賞受賞研修成果披露演奏会
中田 麦 マリンバリサイタル
開催日時:2016年 11月23日(水・祝)18:00開演(17:30開場)
出演者 中田 麦(マリンバ)、崔 理英(ピアノ)
演奏曲目 ◆G.F.ヘンデル/ヴァイオリンソナタ ニ長調 HWV371
◆J.S.バッハ/無伴奏チェロ組曲 第6番 ニ長調 BWV1012
◆助川敏弥/パウル・クレーによせる5つの小品
◆八村義夫/アハーニア
◆一柳 慧/パガニーニ・パーソナル
入場料 ¥3,000(一般)・¥1,500(学生)【全席自由】
チケット販売 ◎青山音楽記念館 ☎075-393-0011
◎ローソンチケット ☎0570-000-407(Lコード 56836)
◎チケットぴあ ☎0570-02-9999(Pコード 305-345)
※未就学児入館不可