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「高木和弘×ヴィッレ・ヒルトゥラ con salon de sasanoha クラシック meets タンゴ」曲目解説を公開いたしました

2022.05.25

今回のコンサートで演奏される曲目の解説を事前に公開いたします。
クラシックとタンゴの出会いから生まれた楽曲をお楽しみください

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PROGRAM NOTES
大内 勝利 (山形文翔館室内楽シリーズ プロデューサー)

A. ドヴォルザーク:5つのバガテル 作品47 バンドネオン版
Antonín Dvořák : Bagatelles op.47

 バガテルとは軽い小曲を指し、ドヴォルザークは1878年に弦楽トリオとハルモニウム(またはピアノ)のための5つのバガテルを作曲しました。
第1曲 アレグレット・スケルツァンド。バンドネオンの持続音とチェロのピチカートにのせて、2つのヴァイオリンが哀愁を帯びたメロディを奏でていきます。一言でいえば何だか懐かしい旋律。曲は最後に メノ モッソとなりバンドネオンとヴァイオリンがまるで後ろ髪を引かれるように曲を閉じます。
第2曲 テンポ・ディ・メヌエット。快活な3拍子というよりは、レガートが続く上品で落ち着いたメヌエットの曲です。優美にクレシェンドとデクレッシェンドを繰り返しながら曲を終えます。
第3曲 アレグレット・スケルツァンド。もう一度第1曲のテーマで始まります。しかし曲の展開は前とは違い、少し激しさが増しています。哀愁の表現にも厳しさの顔があるということでしょうか。
第4曲 カノン アンダンテ・コン・モート。カノンとあるように、4つの楽器が互いに追いかけるように歌っていきます。曲の中盤ではテンポが速くなり、変化を持たせています。
第5曲 ポコ・アレグロ。チェロのソロが先導し快活なテンポで曲が開始されます。それはチェコの民族舞踊を連想させるものですが、トリオ風の中間部ではテンポが少し緩やかになって、踊りも一息ついた感じに。その後急速なテンポが戻りつつも、曲の最後は少しだけリタルダンドして終わります。

 本日は哀愁を感じさせる楽器としてはハルモニウムに引けを取らない、バンドネオン版で演奏します。

A. ヒナステラ:弦楽四重奏曲 第1番 作品20
Alberto Ginastera : String Quartet No.1 op.20

 弦楽四重奏曲第1番は1948年に作曲、ヒナステラ32歳の時の作品。
第 1 楽章 楽譜には Allegro violento ed agitato とあり、violento とはスペイン語で「激しく」の意味です。正に激しい変拍子のアタックで始まり、低弦3声の機関車のようなリズムの上で第1ヴァイオリンが語り始めます。それは語りと言うよりも叫びに近いもので、後半部では Piu mosso となり荒々しく曲を終えます。
第2楽章 急速なテンポは第1楽章と共通ですが、執拗な3連符が連続し切迫感はより増しています。時折り耳にする sul ponticello スル・ポンティチェロ奏法(弓を駒の近くで弾く奏法)が効果的です。
第3楽章 一転して静寂の世界が広がり、第1ヴァイオリンがソロを奏でると、それはチェロのモノローグ的な旋律に引き継がれていきます。そして最後は消え入るように静かに曲を閉じます。
第4楽章 前の楽章から一変し、変拍子の不規則なリズムが再び戻ってきて激しさが復活してきます。中間部では同じ変拍子のリズムをピチカートで演奏するためやや荒々しさは収まりますが、間もなくtutti の4人全員によるラストへ向けての全力疾走が開始され、エンディングまで一気呵成に突き進みます。

ピアソラからモサリーニ、ベイテルマンへ

 ピアソラとモサリーニ、ベイテルマンは皆アルゼンチンに生れ、3人ともに30歳を過ぎてからパリへ居を移したという共通項があります。ベイテルマンは1976年、31歳の時にパリへ移りそしてピアソラのヨーロッパツアーにメンバーとして参加しました。モサリーニも翌年の1977年にパリへ居を移してきて、コントラバス奏者(パトリス・カラティーニ)とベイテルマンとでタンゴアンサンブルのトリオを組み、積極的に現代タンゴ音楽を発信し続けてきました。

 今日のピアソラ作品では、弦楽カルテット、バンドネオン+ヴァイオリン、バンドネオン+弦楽カルテット、といった様々な編成が楽しめます。

A. ピアソラ:4人でタンゴ
Astor Piazzolla : Four for Tango

1988年、クロノス・カルテットのために書かれた曲。クラシック音楽伝統の演奏スタイルである弦楽四重奏にタンゴの熱いパッションを投入した作品です。曲は開始から少しも弛緩することなく進み、一気に呵成したままラストを迎えます。

A. ピアソラ:ブルーノとサラ
Astor Piazzolla : Bruno et Sarah

 1977年発表のアルバム “Viaje de Bodas” から、バンドネオンとヴァイオリンが寄り添い合う哀愁の一曲。

A. ピアソラ:新婚旅行
Astor Piazzolla : Viaje de Bodas

 ブルーノとサラと同じアルバム “Viaje de Bodas” から表題曲。題名が「新婚旅行」なのに何故か憂いのある曲調で、しっとりとした雰囲気で曲を終えます。

A. ピアソラ:さよなら お父さん
Astor Piazzolla : Adios Nonino

 この曲はピアソラの代表曲のひとつで、様々なソロ楽器や編成で演奏されていますが、今日のバンドネオンと弦楽カルテットによる編曲はピアソラ自身によるものです。愛する父が亡くなった時、哀悼の意をこめて作った曲で、1990年7月3日アテネで行われたピアソラのラストコンサートでも彼のバンドネオンで演奏されました。

 モサリーニからはバンドネオンとヴァイオリンのデュオを1曲。

J. J. モサリーニ:往復 第1番
Juan José Mosalini : Aller et Retour I

 原曲はフルートとバンドネオンのために作曲されました。ビートの効いたタンゴのリズムは鳴りを潜め、静かに音楽が往復していきます。

 ベイテルマンからはバンドネオンと弦楽カルテットの作品を4曲。

G. ベイテルマン:古典と現代
Gustavo Beytelmann : Clasico y Moderno

 この曲でベイテルマンは、伝統的なタンゴ音楽とクラシック音楽とを繋ごうとしています。緩と急、古典と現代が共存しながら音楽が進みます。

G. ベイテルマン:ポートレート 第3番 
Gustavo Beytelmann : Retrato No.3 

この曲はアルバム “Clasico y Moderno” のために作曲されました。現代タンゴの音楽的なポートレート・シリーズの3楽章に当たります。タンゴ特有の鋭角的なリズムのもと、各パートの妙技が披露されます。

G. ベイテルマン:悲しみ
Gustavo Beytelmann : Triste

 チェロのピッツィカートを伴った弦楽アンサンブルをバックに、バンドネオンがメランコリックなメロディを紡ぎだしていきます。

G. ベイテルマン:供物
Gustavo Beytelmann : Ofrenda

 メキシコのお盆にあたる祝祭日にはオフレンダと呼ばれる祭壇に、故人が愛用していた品物やテキーラ、ローソク、花(マリーゴールド)を供物としてきれいに飾って亡き人を偲びます。その気持ちにこの音楽は寄り添っているかのようです。