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特別インタビュー掲載 バロックザール企画監修者・鈴木優人さん

2022.10.26

  バッソ    コンティヌオ
<Basso Continuo>シリーズ企画監修者
鈴⽊優⼈さんインタビュー 
2023年2⽉5⽇(⽇)のチェンバロリサイタルⅡについてお話を伺いました。

―2021年11⽉の「平均律クラヴィーア曲集第1巻」に続く第2回公演は「パルティータ」全 曲ですね。 

鈴⽊:実は来年(2023年)度は「平均律クラヴィーア曲集第2巻」を演奏す る予定で進めており、平均律1巻と2巻の間に、特に重要な「6つのパルティータ」を演奏しておきたいと考えました。内容は充実を極め、変奏曲の豊かさ、そして6曲で異なる⽅向性の世界観が特徴的です。 6つのパルティータは、まず第1番が1726年、第2・3 番が1727年、第4番が1728年、そして第5・6番が1730年に発表され、1731年に6曲まとめ て「クラヴィーア練習曲集第1巻」として出版されました。⽣前に出版された数少ない作品の⼀つです。 
 練習曲と⾔っても、ツェルニーのような機械的な訓練を意味するものではありません。 ケーテンの宮廷で主に器楽作品に取り組んだ後、ライプツィヒに移って、毎週教会の礼拝のためにカンタータを作曲した経験をもって作曲されたこれらのパルティータは、カンタータの作曲技法と同じような対位法技法が随所に光る作品となっています。 
 ちなみに、第1巻のパルティータでは特に2段鍵盤の使い分けの指⽰はありませんが、イタリア協奏曲やフランス⾵序曲を含む第2巻ではフォルテとピアノの指⽰があり、つまり2段鍵盤で演奏するように指⽰されています。そして第3巻はドイツ・オルガンミサのための曲集で、2段の⼿鍵盤と⾜鍵盤、つまり「3」つの鍵盤で演奏するように指⽰されています。 これらの流れを⾒ますと、出版に当たっての、バッハの深慮遠謀が感じられます。 

―バッハの数ある作品の中で、6つのパルティータが初めての出版作となったのはなぜだと思われますか︖ 

鈴木:当時はそもそも出版というのが⼤変なハードルでした。それに加えてバッハ⾃⾝が、商業主義に⾛らず、⾃らの作曲技法の完成に注⼒していたことなどが要因では無いでしょうか。 この作品こそが出版⽬録「1」として相応しいと⾃信をもって出版したのだと思います。 バッハが41歳にして初の作品出版というのは、他の作曲家と⽐べても⼤変珍しいことだと思います。 

―バッハはどのような意図からパルティータの作曲に取り組んだのでしょうか︖

鈴木:ライプツィヒに赴任し、トーマス・カントールになってから5年ほどの、毎週に及んだ教会カンタータ作曲と演奏への忙しい取り組みが⼀段落し、パルティータなどのチェンバロの独奏曲の創作を再開したのは、バッハ⾃⾝の気晴らしや、⾃⼰の更なる研鑽への取り組みで あろうことを超えて、とても⾃然な流れであったと思います。 
 ⼦供や弟⼦に対する教育的な素材も必要でしたので、変奏曲を舞曲の性格に応じて「これはイタリア⾵のコレンテ」「これはフランス⾵のクーラント」などとタッチを使い分けて演奏することを教える教材として役⽴てられたと考えられます。 
 ちなみに2番⽬の妻アンナ・マグダレーナに贈った「アンナ・マグダレーナ・バッハのための⾳楽帳」には様々なカテゴリーの曲が含まれていますが、パルティータ第3番と第6番の原型が含まれており、ここから出版までに作品を磨いていく緻密なプロセスが⾒て取れま す。この2曲以外も、原型がもともとあって、そこに改訂を加えて出版された可能性があります。 

―⾳楽家としてのバッハの⽣き⽅はどのようなものだったのでしょう︖ 

鈴木:当時の⾳楽家は誰しもパトロンに仕えて活動していました。それは例えば王侯貴族、そして教会、さらに国や街や市などの⾏政機関などです。これらのどちらにも仕えることができる作曲技術がバッハの武器であり、どの様な⼈⽣のキャリアを選ぶかというところは様々な巡り合わせでした。ケーテン時代のバッハには、迷いがあったでしょうし、ライプツィヒに 赴任してからもドレスデンの宮廷へのアプローチなど、更なる発展を考えていたようです。 

―バロック⾳楽に⽋かすことのできない要素として装飾⾳がありますが… 

鈴木:演奏家が演奏に⾃らのアイデアを持ち込むことは、バロックでもロマン派⾳楽でも絶対に重要なことだと考えています。その上で、どの様なアイデアでも良いということではなく、 ⾳楽の趣味に合った装飾とは何か、と考え、感じとることが必要です。⼀体としてのフレー ムワークの中で楽譜が演奏者を縛りもするし、解放もするということ―そしてこれは同時に起こります。  

―チェンバロ演奏の際に特に気を配られている点は︖ 

鈴木:チェンバロはギターのように弾(はじ)いて演奏する楽器であり、⼀つ⼀つの弾き⽅が変えられず、ピアノのように⾳量に差がつけられませんが、しかし⾳の弾き⽅、語り⼝や繋ぎ⽅で様々にメロディーを歌わせることができます。絵画の「点描画」の技法のように、弾かれた⾳同⼠の間は「脳」が補完しますがその作業が⼼地よく、旋律を歌うこと、いかに充実 させるかということを⼤切にしています。

―お客様へのメッセージをお願いします。 

鈴木:バッハの前任地のケーテン侯レオポルト公の⼦息が誕⽣した時にお祝いとして献呈されたパルティータ第1番は1726年、バッハが41歳の時に出版されました。 現在41歳を迎えた私には、このパルティータ全曲演奏はとても意味のある取り組みです。 ツアーは最終の京都公演に向けて全国各地で合計7公演を予定しています。バッハの⾳楽の叡智に浸る時間になるように臨みたいと考えています。会場でお⽬にかかれますことを楽しみしています。