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曲目解説を公開しました。(8/31 開催:マルシン・ディラ ギターリサイタル)

2024.08.01

国際コンクール19冠に輝き、「この地上で最も才能のあるギタリストの一人」と言われるマルシン・ディラさんの演奏を存分にお楽しみいただけるよう、音楽書編集者の小川智史さんによる曲目解説を事前公開しました。ご来場前にぜひご覧ください。

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若手時代から変わることのない堅牢なテクニックと明晰な解釈を具現化する豊かな表現力で、比肩するもののない存在感を示しつづけるポーランドの若きマエストロ、マルシン・ディラ。昨年に続く来日公演はプログラムを一新し、さらに選りすぐりの曲目が用意された。これらをどう“料理”するのか、「クラシックギターの極北」とも言える演奏でぜひ存分にご堪能いただきたい。

シルヴィウス・レオポルト・ヴァイス(1686–1750)は後期バロックを代表するリュート奏者。現在のポーランド、ヴロツワフ近郊の町グロトクフに生まれ、ドレスデンなどおもにドイツの宮廷で活躍した。同時に演奏旅行でヨーロッパ各地を訪れ、ライプツィヒに滞在した際にはJ.S.バッハと交流している。没後はリュートの衰退とともに忘却され、再発見されたのは20世紀になってからだった。《ソナタ第34番ニ短調》は比較的早い時期に発掘され長く親しまれているヴァイス作品のひとつで、2つのメヌエットを含む8曲からなる。今回は、バッハ作品などに典型的な6曲の室内ソナタに再構成して演奏される。

ヴェンツェル・トマス・マティーカ(1773–1830)の名は一般に、シューベルトが“編曲”した《ギター四重奏曲》D 96のオリジナルの作曲者として記憶されているが、1995年に詳細な解説つきのギターソロ作品集が出版されて以降は、ギター愛好家の興味をかきたてる存在となっている。チェコのホツェニに生まれたマティーカは、音楽に親しみながらも法律を学び、プラハ大学卒業後はベートーヴェンのパトロンとして知られるキンスキー侯爵のもとで法職に就いた。しかし最終的には音楽家を目指して1800年にウィーンへ移り、またたく間に作曲家、ピアノ教師、そしてギタリストとして注目を集め、作品番号にして33のギター作品を出版した(うち独奏は12曲)。1811年に“作曲”された《ギター・ソナタ ロ短調》op.23は、同時代のギター・ソナタと比較して充実した内容をもつが、連打音が切迫感をかきたてる第1楽章と、下降音型が優美な第2楽章はそれぞれ、ハイドンの《クラヴィーア・ソナタ第47番ロ短調》Hob XVI:32の第3楽章、第2楽章を参照した内容となっている。オリジナルと思われる第3楽章は華やかな技巧がちりばめられたロンド。

©Lukasz Rajchert

20世紀を代表する英国の巨匠ジュリアン・ブリームは、多くの作曲家を魅了しギター・レパートリーの拡大に多大な貢献を果たしたが、レノックス・バークリー(1903–1989)もそうしたなかのひとり。パリ留学時代(1927–1933)に最初のギター曲を手がけてから20年以上を経て、弟子のジョン・マンドゥエル(BBCプロデューサー、作曲家)を通じて知り合ったブリームのために1957年に《ソナティナ》op.51を作曲した。イギリス民謡風の素朴な第1主題が印象的な第1楽章、十二音技法的に展開される第2楽章、快活な曲調のなかにトレモロやハーモニクス、ラスゲアード(かき鳴らし)などギターらしい奏法を盛り込んだ第3楽章からなる。

不朽の名作《アランフエス協奏曲》で知られるスペインの作曲家ホアキン・ロドリーゴ(1901–1999)は、自身で演奏する楽器はピアノのみ、またよく知られるように失明していたにもかかわらず、1926年に《遙かなるサラバンド》を作曲して以来、愛着をもつギターのための作品をキャリアを通じて書きつづけた。多数あるなかでひときわ高い評価を受けているのが、ロドリーゴが最も影響を受けたという作曲家マヌエル・デ・ファリャへの賛歌として1961年に書かれた《祈りと踊り》で、バレエ音楽《恋は魔術師》をはじめとするさまざまな作品がコラージュのように織り込まれている。

70年の歴史をほこるドイツのシュヴェツィンゲン音楽祭にて2018年に委嘱新作オペラが初演され注目を集めるスペインの作曲家ホセ・マリア・サンチェス゠ベルドゥ(1968–)は、1989年とキャリアの早い時期から断続的にギター曲を手がけているものの、それが広く知れわたったのはギター作品集のCDがリリースされた2022年、ごく最近になってからのことだと言えるだろう。アラビア語で「書物」を意味する《キターブ》は、ギターを編成の軸にした9作からなる室内楽作品集で、1996年作曲の第1番はギター独奏となっている。作曲家自身の説明によると「“オスティナート”のリズムを土台に、ギターの技術的、音響的なポテンシャルを探求するための音色の研究」で、ギターの扱いに長けた作曲家ならではの「特殊奏法の見本市」を楽しむことができる。

いまやクラシック音楽家にも好んで取り上げられる“タンゴの革命児”アストル・ピアソラ(1921–1992)は、ギター界では早くから重要な作曲家だと認識されていた。アルゼンチンの名ギタリストのロベルト・アウセルとの出会いをきっかけに1980年に書かれた《5つの小品》は、ピアソラ唯一のギター独奏曲。アウセルによると、ミロンガのリズムで書かれた第1曲はピアソラの父へのオマージュ、第2曲は1960年代のメロディの自由な解釈、第3曲と第5曲はモダンタンゴのスタイルが取り入れられ、第4曲は葬送行進曲となっているという。

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2024年8月31日(土)「マルシン・ディラ ギターリサイタル」
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