特別インタビュー掲載(11/15公演:寄田真見乃 尺八コンサート)
2024.10.25毎回好評をいただいているバロックザールのワンコインコンサート。第6回目(11/15)は全国最年少の16歳で琴古流大師範を允許された尺八奏者 寄田真見乃さんの登場です。古伝尺八の唯一の伝承者であり、その卓越した表現力が国内外で高く評価され、近年では令和4年度京都府文化賞奨励賞を受賞されました。コンサートに向けて、尺八との出会いから聴きどころまで、たっぷりとお話を伺いました。
■ どのようにして尺八を始められたのですか?
幼い頃、リコーダーを吹くのが得意だった私が、尺八に出会ったのは偶然でした。両親の知人にすすめられ8歳の時に習いはじめました。あの時の出会いがなければ、今の私の人生は全く違ったものになっていたかもしれません。
そして、私の人生における大きな転機が訪れたのは、15歳の時です。谷口嘉信琴古流洗心窟大師範(元アメリカ・オバーリン音楽院客員教授)との出会いが、その後の私の道を大きく変えることとなりました。当時、明暗寺(東福寺)で開かれた尺八大会に出場し、そこで谷口師の演奏を聴いた瞬間、奏でる音色の美しさに深い感銘を受けたのです。それはまさに魂を揺さぶる経験であり、「この方に教えを請いたい」と強く思いました。
それからは、谷口師のご自宅がある峰山まで、片道3時間をかけて毎週通う日々が始まりました。厳しい練習は続きましたが、時折、山林で音取りをしている最中に、野生の鹿が静かに近づいてくることもあり、自然の息吹を感じながらの学びは、私にとってかけがえのない時間となりました。
その努力が実を結び、16歳の時に琴古流大師範の免状をいただくことができました。この出会いと経験が、現在の私を形作った大きな要因です。
■寄田さんは、2011年度第21回青山音楽賞《新人賞》を受賞されています。当時の気持ちをお聞かせください。
人生で初めてのリサイタルを、京都のバロックザールで開催したこと自体、私にとっては大きな挑戦でした。そして、そのリサイタルが評価され、第21回青山音楽賞《新人賞》を受賞できたことは、まさに夢のようでした。実は、当時は多くの素晴らしい演奏家が同じ賞にエントリーしており、「受賞できたら嬉しい」と思う一方で、「自分が選ばれるはずがない」という気持ちも正直ありました。
受賞の知らせを受けた時は、驚きと喜びが入り混じり、心から光栄に感じました。また、自分の演奏が評価されたことについて、私は特に感慨深いものを感じました。それは、師匠がその類まれな才能を持ちながらも、その才能ゆえに周囲から理解を得ることが難しい場面が多々あったからです。それでも、師匠はひたむきに尺八と向き合い、その道を究めてこられた。今回の受賞は、私自身の努力だけではなく、その師匠の才能と教えがようやく広く認められた証でもあると感じたのです。この賞をいただいたことは、私にとって大きな励みとなり、今でもその感動は忘れられません。
■コンサートの聴きどころを教えてください。
今回のコンサートでは、二大秘曲とされる「鶴の巣籠」と「鹿の遠音」を中心に演奏いたします。「鶴の巣籠」は、子が巣立つまでの親子の愛情を描いた曲で、今回演奏するのは、その中でも陰と陽の微妙な吹き分けや、「スズル」の秘伝技法を駆使した至難の一曲です。技術的にも精神的にも最高峰のこの作品は、尺八の持つ奥深い表現力を存分に引き出します。一方、「鹿の遠音」は、三十六歌仙の猿丸太夫が百人一首で詠んだ「奥山に 紅葉踏み分け 鳴く鹿の 声聞く時ぞ 秋は悲しき」という歌にも表れているように、秋の深山に響く鹿の声を通して、夫婦の絆や深い情感を描き出しています。自然の風趣と人の心情が交錯するこの曲は、聴く人を詩情豊かな秋の情景へと誘います。
■「尺八」という楽器の魅力をお聞かせください。
尺八は、洋楽では到底表現できないほど多彩な音色を持つ楽器です。特に古伝尺八を通して奏でられる音は、まるで魂の奥深くに響く旋律のようです。一度その音を耳にすれば、和楽器がこれほどまでに表現豊かで、感動的な音色を持っていることに驚かれることでしょう。
私は、この魅力を守っていけるよう、不易流行の理念を胸に抱き、未来の千年を見据えながら邦楽の新たな可能性を模索するべく活動しています。多くの方にこの素晴らしい尺八の魅力を感じていただけるよう、心を込めて演奏いたします。また、バロックザールは邦楽器が非常に美しく響くホールですので、この空間で再び演奏できることを心から楽しみにしています。
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2024年11月15日(金)15:00開演
バロックザール ワンコインコンサート vol.6
「いろはにほへとちりぬるを、わかよ 寄田真見乃 尺八コンサート」公演情報・チケット購入情報はこちら