特別インタビュー掲載(2022年1月8日公演:小菅優さん)
2021.12.11
2022年1月8日、バロックザールに登場されるピアニストの小菅優さんにお話をお伺いしました(2021年12月)。
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—この度はご出演頂きありがとうございます。小菅さんのバロックザールに対するイメージはどの様なものでしょうか?
小菅:室内楽やリサイタルにちょうどいい大きさで、家族的で暖かな雰囲気だと感じました。
—今回のリサイタルツアーは計5公演で、会場の大きさが異なります。キャパシティの大小に対応する演奏上の秘策は、どのようなものでしょうか?
小菅:リハーサルのときにホールの響きを聴くことができるので、それに合わせてペダルの量や音量などを考えますが、基本、その場で耳が察知してタッチなどを調整します。
—前半と後半の異なる2つの世界観、そしてそれぞれの作品の異なるキャラクターに挑むときの気持ちの有り様というのは、どのように変えておられますか?
小菅:想像する世界は全く違いますが、私の作品に対する姿勢や気持ちは変わりません。
—作品解釈や演奏芸術について、かくあるべきという確固たる方向性やお考えがあるでしょうか?
小菅:常に大事だと思うのは、その場で大衆を楽しませることよりも、芸術作品をどのようにこの世界に残すか、お客様一人一人がそれぞれの作品に心を向けて何かを持ち帰ってくれることです。
—作品解釈のために作曲家のこと、時代性、土地柄や環境、自筆譜を含めて楽譜の事、その他、どの程度まで研究や探求されておられるでしょうか?
小菅:現代はアーカイブへのアクセスが簡単になり、インターネットであらゆる自筆譜や100年以上前の新聞記事や廃盤になった本などを見ることができることは有難いです。自筆譜を見ると、作曲家の性格をはじめ、筆の動きによって書いたときの心境や、フレーズやペダリングなどの指示の微妙な場所の違いなどが見られることです。また、過去の新聞記事では当時の情景が想像できたり、作曲家の遺族による証言などから、より身近に感じる人間像が把握できたりと面白いことばかりです。
今回のプログラムに関しては、武満徹さんは幸いたくさんの著書を残されていらっしゃり、素晴らしい感性や知性による音楽に対しての言葉に沢山インスピレーションを受けています。フランクの弟子のヴァンサン・ダンディの書いた師匠の伝記と作品についての本は、フランクに限らず当時の歴史的背景や音楽の方向性も読み取ることができます。また、たとえばドビュッシーの「沈める寺」はイスの伝説*(脚注参照)に基づいていますが、その舞台となるブルターニュ地方のドゥアルヌネに行ってきました。美しい海には何だか少し寂しいところもあり、その壮大かつ湿ってミステリアスな雰囲気を味わってきました。ドビュッシーのいくつかの前奏曲の自作自演も聴くことができ、作曲者がどのように弾いたかを知り感じることは、とても参考になります。
—長い演奏家人生の道のりで、どのくらい先々のことを考え始めておられますでしょうか?
小菅:何年か先まで続くコンサートシリーズによってレパートリーの目標などを決め、そこまでに音楽的にも人間的にも何が得られるか考えます。難しい道を選んだ方が後で得られるものが大きいので、険しい道のりを自分で作るようにしています。
—人生経験を積むことで演奏が変容するなどの影響があるでしょうか?
小菅:音楽は身も心もすべて費やすものですから、経験するものはすべて自分の演奏に刻まれていくと思います。作品の背景を勉強したうえで、作品から感じられる自身の経験と感情も本番で自然と想像しますから、反映されていないわけがないと思います。
—体調管理の方法、特に気を付けられている事柄などありますか?
小菅:基本ずっと下を向いて座っている仕事ですから、反対に上を向いて体を開くように心がけています。その他は、人生を楽しむことにしています。映画をみたり、料理をしたり、ゲームをしたり、気分転換を常にしています。
—お忙しいところ、ありがとうございました。当日を楽しみに致しております。
*イス(Ys=低地)の伝説/イスは、フランス・ブルターニュ地方に伝わる伝説上の都市。5世紀頃にブルターニュ地方西端の海に面した低地に造営され、大洪水によって一夜で姿を消したとされている。
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2022年1月8日(土)「小菅 優 ピアノ・リサイタル」公演情報・チケット購入情報は⇒こちら