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特別インタビュー掲載(2022年10月9日公演:アントワン・タメスティさん)

2022.08.25

アントワン・タメスティ&鈴木優人

現代最高のヴィオリストの一人、アントワン・タメスティさんがバロックザールに初登場。
鈴木優人さんとのデュオリサイタル(10/9)に向けてお話しを伺いました。
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—お二人の出会いのきっかけをお聞かせ下さい。

 優人さんと知り合ったのは、彼の父親である鈴木雅明氏とパリ室内管弦楽団でモーツァルトの《協奏交響曲》で共演した時です。優人さんがその会場に来ていて、親しくなりました。それから何年もの間、私が日本を訪れた時、彼がヨーロッパに来た時に友人として色々なことを話してきました。食べ物についてなどリラックスした、気の置けない話はもちろん、多くの時間、最も大切な音楽について語り合いました。バロック音楽とそのレパートリー、現代音楽、オーケストラ、ヴィオラやチェンバロでできる新しいこと、あらゆる新しいレパートリーについて、新しいプログラムについてのアイディア出しなど、たくさんの興味深い会話の時間を費やしてきました。

しばらくすると、会話するだけでは飽き足らず、それ以上の何かを共有する必要があることが明らかとなり、一緒に演奏しはじめ、シュニトケ《モノローグ》や最も重要なバッハの《ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ》などの企画を練り、さらにコンサートやレコーディングの計画を立てました。その間も、それまで長いこと続けてきた会話を止めることはなく、もう優人さんと知り合ってから10年以上たちますが、変わらず刺激的で生産的な関係を続けています。そこから生まれた結果がコンサートやレコーディングであり、二人にとってすべての音楽についての会話が多大なインスピレーションの源となっています。

—ミュージシャン/鈴木優人さんとは?

 音楽家としての鈴木優人さんを形容するとしたら、"驚異的なインスピレーションを与えてくれる存在"と表現します。彼はバロック音楽、特にバッハをはじめとする古楽について、驚くほど豊かなバックグラウンドを持ち、素晴らしい教育を受けており、その知識が彼の人格と完璧に統合されていると同時に、若々しさとオリジナリティを持っていて、知識と革新の経験による組み合わせが、彼という本当に完全で豊かで、エキサイティングな音楽家を作りあげています。

彼はコンサートでも、リハーサルの時から霊感を与えてくれますが、それは彼のパーソナリティと知識からくる結果で、音楽を本当の喜びとし、細部に至るまで、どれほど多くのリズムやどんな小さな装飾も、すべてが彼にとって楽しいことで、それをリハーサルやコンサートでも感じることができるのです。

今回はヴィオラ・ダ・ガンバ ソナタをヴィオラで演奏されますが、演奏する上で工夫されている点を教えてください。

©Alesha Birkenholz

ピリオド楽器は大変興味深いディテールに溢れていますし、長い年月をかけてモダンな楽器へと進化してきましたが、それはより良い響き、より大きな音、より大きなホールや多くの聴衆に対応できるようにするために遂げられた進化です。弦楽器、特にヴィオラとピリオド楽器について言えば、モダンとの主な違いは、ネックが平であるため、左で楽器を持つ際の角度が少し違ってきます。指板が短く、ブリッジも角度の違いにより、低くなります。そのため楽器にかかる張力が弱くなります。

私が実際に使用しているのは、このタイプではなく、ストラディヴァリが1672年に製作した美しい楽器です。ある意味ではこれもピリオド楽器もしくはヒストリカルな楽器といえますが、ほとんどのストラディヴァリウスがそうであるように、私の楽器もネックを少し低く、ブリッジの角度が高いというモダンな仕様に改造されています。またブリッジ自体も高く、指板も長くなっています。

それに加えて、ヒストリカルあるいはピリオド楽器とその演奏についての主な違いは、ガット弦、時には金属で巻かれたガット弦と、弓も現代とは異なる形や丸みを持つバロック弓の使用です。私はこの弦と弓の違いこそが、音や倍音、ボウイングや左手のアーティキュレーションに影響を与えるため、より重要であると考えます。そして私たちは弦と弓からより多くの音の表情を聴きとっており、ガット弦とバロック弓であればなおさらそうです。そういう理由で、私は自分の歴史的なピリオド楽器といわれる楽器が、モダンな指板とネックという仕様に改造されていることが気になりません。ただしバッハを弾く時にはガット弦とバロック弓を使うことが多く、バッハのソナタもその形で演奏するつもりです。ある意味で、私は完全に歴史的な楽器と現代的なものとの中間のような解決策をとっているわけですが、私の演奏はガット弦とバロック弓に多大な影響を受けているので、よりヒストリカルでピリオディカルに響くように心がけています。

私にとっては、そうすることで、バッハをどう解釈するか、どのような形にするのか、どのように語りかけるか、そしてアーティキュレーションをどうするかを考えさせられるので、最高に面白く刺激的なのです。これらすべての要素が音楽的に重要だと思っているので、自分の楽器のこのようなセッティングには大変満足し刺激を受け続けています。

ヴィオラ・ダ・ガンバ ソナタの魅力とは? 

 私はバッハの3つの《ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ》が本当に大好きなのですが、それはこの作品がたった2つの楽器で親密に演奏される室内楽でありながら、まるでトリオ・ソナタのように書かれており、3人の奏者で演奏される、3声であるかのような特徴があるからです。まずヴィオラ・ダ・ガンバの声部があり、チェンバロの右手のソプラノの声、チェンバロの左手の声はバリトンかバスで、トリオ全体を流れるベースラインのようなものです。右手のソプラノの高い声はフルートやヴァイオリンのようなものと言えるかもしれません。そしてヴィオラ・ダ・ガンバの部分はヴィオラのようでもあり、歌に例えるとコントラルトかメゾ・ソプラノの音域です。左手の低音部は、バスの声で、チェロかファゴットのようで、まるでヴァイオリン、ヴィオラとチェロのトリオのようで、本当に完全な室内楽なのです。

演奏するにあたっては、常に3声を意識し、誰がメロディーをリードし、誰が伴奏を担当し、ベースラインを誰が受け持っているのか、誰がリズムを刻み、誰がそのフレーズを担っているのかを理解していなくてはなりません。この特徴的なソナタは、演奏するにも、学ぶためにも大変興味深いもので、演奏者にも聴衆にもこの豊かな3つの声が色々なことを教えてくれるでしょう。

バッハの《ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ》をヴィオラで演奏する場合、大前提としての楽譜の理解と既にお話した声部の作り方以外に必要な唯一のスキルは、ヴィオラ・ダ・ガンバという楽器をよく理解し、この楽器の非常に輝かしい色彩感や、豊かな倍音、時に鼻にかかったような、歌手が非常に高い頭声で歌うような音色についての知識を持つことです。ヴィオラでそれを弾くには、ブリッジの近くで弾き、弓を速く動かすようにします。ヴィオラ・ダ・ガンバの運弓はとても軽く、和音の響きは丸みを帯びていて、アルペジオが多用されますが、これをヴィオラで模倣することができます。

ヴィオラ・ダ・ガンバ特有の響きのディテールを再現するために、私はとにかく自分の技術と知識をどのように発展させられるのかを考えながら、ソナタを演奏するようにしています。

—無伴奏ヴァイオリンの名曲”シャコンヌ”のヴィオラ演奏も注目のプログラムです。聴きどころを教えてください。

©Julien Mignot

 バッハの《シャコンヌ》は、もう何十年も前から、この曲が非常に豊かで多種の楽器で演奏可能なことが証明されてきました。さらにピアノなどへの編曲も可能で、ブラームスやブゾーニによる編曲版も存在します。音楽的に巨大であり、和声も豊かで、速い妙技であらゆる変奏の可能性があり、興味深いリズムや和音の展開、メロディーのフレージングや、ソプラノの音域、メゾ・ソプラノの音域にベースラインなど、色々な線を辿ることができ、ある意味、バッハによってあらゆる変奏が発見され、ヴァイオリンという楽器を超越しているように思います。《シャコンヌ》自体が、音と色彩のひとつの世界であり、さまざまな楽器のための変奏曲とも考えられます。多種多様なアーティキュレーションや数々の色彩があり、《シャコンヌ》を色々な楽器で演奏するのは大変興味深く、変奏ごとに違う楽器や声を想像することもできますし、《シャコンヌ》自体に興味深い複数の可能性や側面があるのです。フレーズをどのように解釈するか、各フレーズやヴァリエーションをどのように色付けするか、常に新しいアイディアと解釈をもたらしてくれるため、この曲を演奏するのは本当に興味深いことなのです。

私自身は、子供の頃にバッハの《シャコンヌ》と恋に落ちました。すでにヴィオラを始めていましたが、ヴァイオリンによる演奏を聴き、そのあまりの美しさに、五度下げてヴィオラで演奏すれば、もっと暗く深みをもたらし、この曲の性格をよりうまく表現できるのではないかと感じたのです。ヴァイオリンではニ短調ですが、ヴィオラだとト短調になり、もちろん正しいことではないのかもしれませんが、《シャコンヌ》自体がすでに巨大なモニュメント(記念碑)であり、とても深い哲学を有し、この曲をより暗い音色の楽器で弾いたら、その特徴をさらに深め、強調できるかもしれないと考えました。そうしたことから、この曲を聴衆の皆様に届けることで、この《シャコンヌ》という曲の持つ意味をより深く考えるきっかけになればと思いますし、この曲がもともと持っている巨大なテクスチュアで、人文科学のあらゆる側面に到達することができ、深く、輝かしく、豊かな和音が広がることで、ヴィオラがより広い視野を与えていることを、面白いと感じて頂けるかもしれません。

それをおおいに主張したいですが、私は勿論、ヴァイオリン演奏による《シャコンヌ》を忘れませんし、ニ短調という調性も尊重します。しかし、5度下げて演奏することは、単純にこの曲の深みと暗さを表現する上で、原調と同等かそれ以上に良いのではないかとも思っています。聴衆の皆様にも、ぜひそれをお聴きいただければと思います。

近年、そして今後の国際的な活動についてお聞かせください。

©Alesha Birkenholz

 昨シーズンは私にとって特別なもので、シーズンを通して素晴らしいイベントに恵まれましたが、いくつかあげるとすれば、ロンドン交響楽団、シュターツカペレ・ドレスデン、ケルンのフィルハーモニーの3つのオーケストラのレジデンシーが大切な経験となりました。これらのレジデンシーにより、ロンドン響とサイモン・ラトル、シュターツカペレとクリスティアン・ティーレマン、フランソワ・グザヴィエ・ロトとケルンで、現代作曲家・モートン・フェルドマンの全集や、フランスのアーティストたちとの室内楽の夕べなど、素晴らしいオーケストラと指揮者との演奏の機会を頂きました。彼らとの共演により、ヴィオラのさまざまな側面を紹介するとともに、彼らの芸術性やビジョンから多くを学ぶことができた2021/22シーズンだったと思います。

そして来る2022/23シーズンに非常に楽しみにしているのは、私がヨーロッパで30回以上演奏してきたイェルク・ヴィトマンの《ヴィオラ協奏曲》を、クリーヴランド管弦楽団とダニエル・ハーディング指揮のもと、2022年10月にアメリカ初演を行うことです。さらに2023年3月にはアジア・日本初演を、鈴木優人さん指揮で読売日本交響楽団と行う予定で、ヴィトマン作品にとっても新しい命が吹き込まれる大きなイベントとなるでしょう。さらに、モンテヴェルディ管弦楽団&ジョン・エリオット・ガーディナーとの特別なツアーで、ヴァイオリニストのイザベル・ファウストとともに、モーツァルトの《ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲》を演奏するのも楽しみです。ガット弦にクラシック弓を使用し、ピリオド楽器のオーケストラとガーディナー氏の知識とともに行うヨーロッパ・ツアーでこのモーツァルトの大作を弾くのは格別なものになるでしょう。パーヴォ・ヤルヴィ氏と彼のオーケストラとはベルリオーズ《イタリアのハロルド》をイタリアで演奏します。プラハ・ストリング・フェスティヴァルのレジデンシーでは、4つのコンサートで、オーケストラとの共演、リサイタルに室内楽を演奏します。ほかにも多数のプロジェクトやコンサートがありますが、今シーズン中、3つの室内楽ツアーを予定しています。エベーヌ弦楽四重奏団とモーツァルトの五重奏曲、ヴァイオリニストのイザベル・ファウストとのモーツァルトのデュオ、そして素晴らしいクラリネット奏者のマルティン・フレスト、ピアニストのシャイ・ウォスネルとのモーツァルト、ブラームスにフォーレなどがあり、充実したシーズンになりそうです。日本にも3回訪れる予定で、2022年10月は鈴木優人さんとのバッハ、2023年にも優人さんと読売日本交響楽団とのヴィトマン、同年5月にはヴィオラ・スペースがあります。ようやく度々日本を訪れる機会ができて、とても嬉しいです。

レコーディングについては、2023年にイザベル・ファウスト、ジャン=ギアン・ケラス、アレクサンドル・メルニコフとのシューマンのピアノ四重奏曲と五重奏曲の新譜をリリース。2022年秋には、エベーヌ弦楽四重奏団とのモーツァルトの五重奏曲集。また、イザベル・ファウストとのモーツァルトのデュオや協奏交響曲を録音するための準備をしています。個人としては、イギリス音楽を集めたCDを録音すべく準備中です。イギリス音楽に、ヴィオラとピアノ、ヴィオラとオーケストラ、2つのヴィオラのための音楽がたくさんあるので。以上が来シーズンの予定で、とても楽しみにしています。

—バロックザールのお客様にメッセージをお願いします。

 京都の聴衆の皆様へのメッセージとして、今回のコンサート・プログラム、バッハの《ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ》は、鈴木優人さんとの10年以上にわたる音楽についての語り合いの結果、生まれたものであることをお伝えしたいと思います。本当に豊かで美しい友情を育み、音楽の他にも食べることや、家族への愛などを共有し、音楽への情熱が私たちを刺激した結果、ヨハン・セバスティアン・バッハの美しい作品で親密な音楽の対話をする方法を見つけることができました。

今回、日本の聴衆の皆様にご紹介できることをとても嬉しく思います。本来は、昨年行いたかった公演ですが、パンデミックの影響でリサイタルが延期となりました。そのため、今年の10月に日本でこのプログラムをお届けできることは格別な喜びです。日本との友情と、ドイツの作曲家の友情の結晶であるこのプログラムはとても重要であり、このバッハの傑作を皆様の前で演奏させて頂くのを楽しみしています。

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2022年10月9日(日)「アントワン・タメスティ&鈴木優人 デュオリサイタル」公演情報・チケット購入情報は⇒こちら