特別インタビュー掲載 アンヌ・ケフェレックさん
2023.02.17
フランスが誇る名ピアニスト、アンヌ・ケフェレックさんより
2日間連続公演に向けて特別インタビューが届きました。
—これまでの来日で特に印象に残っていることはありますか?
1973年の初来日から、来年2023年は半世紀を迎えます。なんと長く豊かな関係でしょう! 忘れがたい風景、味わい深くエキゾチックで美しい食事、壮麗なコンサートホール、完璧なピアノ、静かで尊敬すべき聴衆、誠実な友人などすべての場面で素晴らしく感動的かつ魅力的で微笑ましい想い出が溢れてきます。
その他にも山を訪れたこと、何度か経験した地震、奈良のお寺、富士山、歌舞伎、新幹線・・・そして音楽とは関係ないことですが、ユニクロやドンキホーテでの買い物、さらに思い切って申し上げますが、世界で日本にしかない高度に文明化され、洗練されたトイレ(笑)、これらが印象として残っています。
—ベートーヴェンの最後の3つのソナタの録音は、ケフェレックさんにとってどのような意味を持つものでしょうか?
ベートーヴェンの最後の3つのソナタを演奏し、録音することは深い精神的な経験を意味します。
音楽が天空と人間の魂に同時に触れるとき、私はこの音楽に真実が表現されているように感じます。まるで”to be or not to be(生きるべきか、死ぬべきか)”という悲劇の難問への答えが提示されているかのようです。ベートーヴェンは “to be(生きるべき)”を選びます。
私たちは皆、影響を与え合っている。まるでベートーヴェンから万能の鍵を与えられたかのように。
ピアニストにとっては突如、長年の忍耐強い作業が、例えばop.111のアリエッタのような完璧なハ長調の和音で正当化されるのです。ベートーヴェンという類まれな人間に対して、私は限りない感謝の念を抱いています。楽譜の複雑さを通して光が見えてきます。
—2日目のプログラムの背景にあるアイデアを教えてください。
前半から、ハイドンとモーツァルトが透明感と流動性をもたらしてきます。ハイドンのロ短調ソナタはリズムがやや激しいけれども、モーツァルトのK.333がカンタービレの中に川と曲線を思い起こさせてくれます。
後半では、曲名にすでに水の特徴が示されていますが、それらが、特にフランスの曲によくみられる音楽の神秘性や無形な詩情を打ち消すことはありません。リストの曲は、より正確な意味を持ち物語を語っています。演劇的な側面もあります。しかし常に音楽は言葉をとおり超えて、別の次元にとどまるものを表そうとします。タイトルはインスピレーションを与えますが、それは “口実 “に過ぎません。
ボードレールの言葉に好きなものがあります
“La musique, parfois me prend comme une mer.” 音楽は時に海となって私を運ぶ。
—日本にはフランス音楽のファンが多いです。フランス音楽の魅力を教えてください。
私は、日本の聴衆がフランスの音楽をいかに評価しているかにとても感動しています。まるでそこに親密な関係があることを認識しているかのようです。
あたかも日本人とフランス人の感性が、言語の違いや歴史を超えて、表面的なことや軽薄な精神とは決して結びつかないその美、秘密性、繊細さ、優雅さを通してつながっているような気がするのです。
—ケフェレックさんの2日間連続公演に期待が高まっています。 お客さまへのメッセージをお願いします。
音楽を分かち合いたいと願う心、そしてコンサートにいらっしゃるお気持ちに感謝します。私にとってコンサートは皆さんとともに作り上げるものであり、聴衆はパートナーです。音楽家にとって『聴かれる』ということはとても感動的なことです。お客様がいらっしゃるホールの静寂と、誰もいないホールの静寂では違います。音楽は時間と沈黙の彫刻であり、それは聴衆の参加によってコンサートの瞬間に形作られるのです。
私は特に、美が尊重され祝福されているこの日本で演奏できることを嬉しく思っています。
2023年5月12日(金)
「アンヌ・ケフェレック ピアノリサイタル DAY1 -最後の3つのソナタ-」
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2023年5月13日(土)
「アンヌ・ケフェレック ピアノリサイタル DAY2 -水の音楽-」
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